東京地方裁判所 昭和24年(ワ)97号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
(事実)
原告は昭和二十三年七月上旬原被告間に同年十一月末日までに明がすべき旨の合意が成立した旨を主張し、右約定による明渡義務の履行を求めた。被告は右合意の成立を否認した。
(判斷)
原告敗訴。
判決は証拠によつて原告主張のように被告が同年十一月末日までに明渡すという趣旨のことを述べた事實を認定したが、つぎに掲げる理由で、右事実は明渡の要求に対する承諾とはならないとして、これを原因とする原告の請求を棄却している。
「……を綜合すれば、昭和二十三年六月頃、原告が訴外山根を通じて被告に対し更に四丈半一間の明渡を求めたのに対し、被告が右要求に応ずることはできないが、原告の方で現状で我慢するなら同年十一月末日までには本件家屋を明渡す、もし期限までに明渡さないときはどんなことをされても仕方がない。という趣旨のことを述べたことが認められる。しかし、当時の住宅難は公知の事実で明渡を要求された借家人が期限を定めて、明渡す旨述べても、借家人に他家屋を入手するだけの資力があるなど、とに角、明渡期限が到来した際明渡すのが当然であると認められるが如き客観的条件を備えている場合なら格別かかる条件のない場合には、右の如く明渡す旨を述べても、それは明渡の交渉の際に於ける儀礼的な遁辞であることもあり、或は何んとかして賃貸人の要求に応ぜんとする賃借人の苦慮の表現と見られることもあり、これにより明渡の請求に対する承諾と認められない場合がある。今本件について見るとき、前記証拠によれば、被告は訴外山根より更に四丈半一室の明渡を要求されたとき、二階八丈間と交換することを申でたのであるが、山根が右申出に承服しないため、当時親類の有するアパートに八月頃までに空室が多分出るだろうと考えて、十一月末日までに明渡す旨述べたに止り、十一月末日までに右アパートに移れるか否かは不確実であつたことが認められる。被告が十一月末日に他に移転しうる客観的条件については主張も立証もない以上、右の如き事情の下における被告の明渡す旨の言葉により賃貸借契約が合意解除されたと見ることはできない。